FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Act.01 二本の太剣 (01)


     ◆ ◇ ◆

 男2人が安宿裏の空地で、刀身が1mもあろうかという太剣を打ち合っている。
 喧嘩ではない。真剣を振り回しているのだから緊迫感はあるけど、乱打ではなく、互いが一定パターンを順番に繰り返しているだけ。1クールが8分ほどもあるが、見物を始めて3順目ともなれば、目も慣れたけど。
「……よく飽きないなぁ」
 エリナは、この朝2回目の溜息を「ふぅ~」と噴出した。
 一見、美少女である。肩までの艶のある黒髪は青味のある光沢をしており、小麦色の肌は健康的で、栗色の大きい瞳はクリクリしている。小柄で、素直に伸びる手足も細い。宿の勝手口の階段にチョコンと座っている姿は可愛くて、世の健全な男性なら庇護欲をそそられるだろう。
 一見、では、あるが。
 その幻想は、彼女が抜身の長剣で肩を叩いている段階で霧散する。片刃の細長い剣はこの地域では珍しく、異邦では「ニホン刀」と呼ぶ。よく見ればまっすぐに見据える瞳には明確な意思が宿っており、心得ある人物なら下心は捨てるだろう。
「早く私にも稽古付けて欲しいのにぃ」
 ブツブツ文句を投げているのは打ち合っている2人へで、彼等はエリナの知り合いだ。というか、旅の仲間だ。
 1人はレイガルド・F・フォーンス。革鎧を上着のように着こなして、洗練された動作は優美とすら見れる。金に近い薄茶の髪は中途半端で収まりの悪い長さではあるが、身嗜みに気を使うのが礼儀とする彼がボサボサ頭などするはずがない。上背は何気に高い。それでも見下ろされる威圧感を感じないのは、緑の瞳が優しいからか。しかし刃が厚く長い太剣を繰る技は機敏で無駄がない。
 もう1人はカザ。ただのカザ。彼の操る得物も太剣だ。レイガルドの太剣と同じく、軽々と操っている。レイガルドとの違いは、彼の方が軽装というところか。鎧はなく、上着の黒デニムに鎖帷子が仕込まれているのを仲間は知っているが、それ以外の目立つ防具類はない。革ズボンに編上げブーツと、動きやすさを最優先した服装だった。

「レイガルドはともかく、カザにあーゆー動作ができるなんて思わなかったけど」

 エリナの隣で、ラヴェルが感心したように言う。その発言にエリナがチラリと(やや冷たい)視線を投げるのだが、ラヴェルには意味が分からない。栗色の瞳でキョトンと見返され、エリナはまた剣戟を見るフリで視線を正面へ戻す。
 ラヴェル・ランフォード。自身を「冒険の初心者」と評している。我を張り合うのが常の渡り鳥でありながら「地味」をモットーとしており、髪も瞳も好みの服も茶色固めという「歩く地味標本」である。
 ――のではあるのだが、けっこう常識的に的確な行動とか、それなのに思慮に欠ける天然ボケ発言とか、ミスマッチな違和感が目立つのだ。年齢は19歳でエリナより3歳も年上なのに、2ヶ月も旅を共にして、気分はすっかり「手のかかるタメ友」と化していた。

「あーゆー動作って?」

 見物人2人の間に、無邪気な声音がふってきた。ラヴェルは慌てて立ち上がる。この場に居るのが仲間内だけではないことを、ようやく思い出したらしい。
「あ、ごめんなさい! 女性を立たせたままで」
(そっちっ)
 エリナの眉が痙攣したコトなど知らぬラヴェルは、傍目にはイソイソと自分の座っていた石段を勧める。座布団代わりに自分の(茶色い)マントまで敷いてやり、そんな気遣いはエリナに対してはなく、それはそれで腹が立つ。
「ありがとう♪ あ、どっちがレイガルドで、カザなの?」
 彼女の方も遠慮がない。毒のない笑顔で他者のテリトリーへ躊躇なく踏み込んでいる。エリナは(苦手なタイプだなぁ)思ったが、自分も同類であることには気付いていない。
 もしくは、この時期だから「苦手だ」と思うのかもしれないが。
「レイガルドは革鎧のほうで、カザは黒尽くめで凶悪そうなほう」
 しかしラヴェルは、エリナの緊張感と無縁らしい。嬉しそうに仲間を紹介していく。
「彼等がやっているのはハモキって剣術の形(かた)だよ」
 彼女は「聞いたことないけど」子首をかしげる。黒髪がサラサラと流れた。艶のわりに強い髪質であるエリナの黒髪と違い、彼女は柔らかな絹糸のようで、光沢は銀だ。肌は雪のようで滑らかだが、服装は長旅に痛みかけた厚手の布。日焼けしにくいのか、シミもない。瞳は好奇心がキラキラ輝く水面のよう。年齢はエリナとラヴェルの中間ほどか。警戒心のない笑顔が気安い。
「僕も詳しくないけど、太剣の剣術なんだって。あ、「形」ってわかる?」
「うん。流派の基本的な動作だよね」
 のほほんと笑顔の会話は続いている。
 エリナは聞き耳を立てながら、また溜息をついた。
「ハモキ」が東陸の流派ではないコトは、多少知識があれば分かること。逆に「ハモキ」を知る彼等の素性が少し変わっているコトも、分かってしまう。
 何気ない会話でも、情報の宝庫だ。
 そこまで考えて、また溜息が出た。
 やっぱり、少し神経質になりすぎだろうか。

     ◆ ◇ ◆



« Back | 【綺麗な剣と壊れた銃】 | Next »


名言集
カテゴリ
◇小説
◇自作小説
│└ 【魔道士の塔の学徒たち】
◇ファルガイア幻想記
 ├ 【簡単紹介】(別窓)
 ├ 【綺麗な剣と壊れた銃】
 └◇短編
  ├ 【樹の上の子猫】
  ├ 【銃の思い出】
  ├ 【迷惑な幻影】
  └ 【魔族の母親】

◇更新履歴
◇自己紹介
最新記事
最新のトラックバック
リンク
ブログ内検索
RSSフィード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。