FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Act.01 導師の課題 (05)


   ◆ ◇ ◆

 私には、嫌いなモノが二つある。
 借金とムスターニだ。
 私の家は貧しい。村全体が貧しかったのだと知ったのは学舎へ来てからだが、ともかく毎年冬を越すのにとても苦労するし、森と岩場に囲まれた農地は狭く収穫も上がらない。森と川の恵みに頼らなければ生活できず、それでも、楽しくはあったけど、それでも私の家は貧しかった。
 それなのに、私が魔力を持っていたために、両親は、村の皆は、私に出来るだけの勉強をさせようと頑張ってくれた。村にいた魔法使いも「君には見込みがある」と、学舎行きを薦めてくれた。
 でも、逆さにふっても入学資金などあるはずがない。
 それでも村の皆は頑張って、地主に頼み込んで援助してくれた。
 私は、そうやって学舎に来ている。
 だから、時間が惜しい。少しでも早く修学して、魔導師、最低でも魔道士にならなくてはいけない。
 少しでも皆の借金を増やさないようにしなければ、ならない。
 だからのん気に「お勉強」している奴等は嫌い。あなた達と私では、目標が違う。のうのうと時間を浪費して、金を喰っているのにも気付かない人間と私は違うのだから。
 そして、ムスターニも嫌い。
 生まれながらの魔道士? ふざけている。
 魔道士は魔力と才能で勝ち得る世の中で、ムスターニだけが例外。ムスターニに生まれつけば魔道士だなんて、そんな理不尽がどうして通るのだろう。
 キャディル王室に強力なコネがあるだけで、魔法使いの努力も才能も差し置いて、自分達だけが安穏と地位に座り続けるなんて。
 そして、誰もそれを「おかしい」と思わないなんて。
 だからムスターニは嫌い。
 大っ嫌い。
 ――それなのに!

   ◇

 師ウィードの執務室へ行くまでに、まだ、難問があった。
 ウィードの前へ行くのに私服では失礼ではないか、とガーネ嬢がゴネはじめたのだ。
 曰く、課題を受けるために伺うならば学徒としての礼を尽くさねばならないが、自身が先日まで着ていた緋色の制服は事務へ返却してしまったし、黒衣の支給はすぐに出来るのか、そも自分の身分としては高等学生としてなのか、最上級生としていいのか、判断が難しい。いや、私服でいいのだとしてもコレは旅装束で、やはり失礼ではないのか?
 云々。
 アルベザイドはにこやかに半分以上を聞き流し、師ウィードはそんなことを気にかけはしないし、そもそも急の呼び出しをかけたのは師の方なのだから、この場合は礼儀に反しない、と同じことを3回ばかり(言葉じりを変えて)繰り返した。
 そんなこんなで、やっとガーネ嬢と共に師ウィードの執務室の扉を開けた時、ガーネ嬢の機嫌が急転直下したと、アルベザイドは気配で感じた。
 ある意味で非常に(自身に)正直な性格と言える。
 まぁ、アルベザイドも上機嫌になりはしなかったが。
「迅速なり。大儀」
「……なにやってるんですか」
 潤沢に空間のある部屋であるコトは相変わらずだが、アルベザイドがほんの一刻前には見なかった物体が執務室に2つ増えていた。
 1つは、豹柄の巨大猫だ。猫といっても大型の肉食獣を連想するので恐怖感が先に立つのだが、かの霊妖が水以外を口にしないのは知っている。知ってはいるが、その霊妖の柔かそうな腹に子供に見える魔導師が抱きついているのは、どう判断すればいいのか。
 神々の奇獣が石床にゆったりと横たわり、まるで子供に乳を与える母猫のように魔導師をくるんでいる。いや、温かで気持ちよさそうだとは思うが、他人の従者に抱きついて悦に入っている魔導師というのはどうしたものだろう。
 普通の女子なら(違和感を無視して)「可愛い」とか言いそうな場面であるが、ガーネ嬢は沈黙している。横目で見ると、彼女が目を向けるのは大猫と子供の癒し系抱擁シーンではなく、やや離れた場所で立っている黒衣の学徒だった。
 この部屋2つ目の増加物は、霊妖の主だった。弛緩した手足に緊張感はなく、顔は見えなかったが、あの、朝から一度も櫛を入れてなさそうな鳥巣頭は間違えようがない。
 リザオ・ムスターニ。ガーネ嬢は、どうやら「ムスターニ」が嫌いらしい。大好きだ、という知り合いはいないから当然だけど、それにしてもやや過剰な反応だ。
 この部屋に学舎の有名人がそろった、とアルベザイドは(自身は含めず)思った。
「出直します」
 呼び出したのは師ウィードだが、先客ならば外で待つ方がいいだろう。
 けれど、魔導師は(ご満悦モードのまま)「よい」2人を呼び止めた。
「そなたら3名、課題を与えん」
 ここで、初めてムスターニは2人へ顔を向けた。相変わらず硝子球のような目だ。感情はなく、生気もない。
「競い合いですか? 優秀者に裁可を下さると?」
 ガーネ嬢は敵愾心を隠さずに噛み付いた。魔導師は翠色で優しい瞳を少女へ向ける。彼女は一瞬頬を上気させ、深く息を吸い込んでから頭を下げた。
「申し訳ありません。ティンク・ガーネ、お呼びにより参上しました」
「お初にお目にかかる、才女殿」
 ウィードは鷹揚に返す。ゆったりと大猫の毛並みを撫でるその手つきは余計だ。
「課題を与えん」
 アルベザイドは、姿勢を正した。隣のガーネ嬢もそれに習う。ムスターニは、ぼんやりしたまま。
「魔導師サネルガの元へ行け」
 師ウィードは澱みなく告げたが、アルベザイドは思い出すのに少し時間を食った。
 学舎の十二賢者と呼ばれる魔導師ではない。キャディル王国でもない。北陸の魔導師を国に仕える者から隠遁者までさらっても分からず、南陸の魔導師4人目で思い出す。
「南陸のケインミンですか?」
 ガーネ嬢が口を挟んだ。声音が硬くなったが、それ以上は言わない。ムスターニは相変わらずぼんやりと……寝てるのか? 寝起きか?
 商業国ケインミンは、南陸の山岳北側に国土を持つ。キャデル王国からは、中島脇を抜ける航路を渡って、港のあるコーナ公国の隣にある国だ。キャデルと同じ山岳国家だが、鉱脈の恩恵豊かな国であると聞く。故に、地母信仰が残っている地域もあるとか。
 単純に、ケインミンへ行くだけならば問題はない。キャデルとコーナ、コーナとケインミンには国交があり、旅人の往来も妨げない。
 ただ、魔法を操る者に、南陸は鬼門だ。かの地は魔法が薄く、そして魔法使いへの偏見もある。北陸のように賢者扱いはされない。
 それでも、魔導師の地位は、北陸と同じであるけれど。
「お目通りが叶ったとして、その後はどうするのですか?」
「会えば良い」
 ウィードは物憂げに、優しく、撫でて囁く。
「会えれば、良い」
 ひっかかる物言いだ。聞き流すか、問いただすか。
 数泊迷う隙に、珍しくムスターニが動いた。小声で従者を呼んだらしい。霊妖はノソリと身を起こし、寝床を追い出された幼い賢者は、けれど残念そうでもなく、優雅に立ち上がった。
「才女殿は身支度済みか。ならばそなた等も急げ」
「……はい?」
 聞き返すアルベザイドの横で、ムスターニは扉へ身体を向けている。大猫もふさふさな尾をくねらせながら続こうとしている。
「疾く行け。麓には間に合う」
 それはつまり、今すぐに学舎を出発しろと、そういうこと?
 色々質問したいコトが山積みなのに、幼い魔導師は取り合わない。

「行け」

 まるで慈愛ある女神のごとき微笑で、困惑の学徒を放り出した。

     ◇

 廊下で、ムスターニが待っていた。
 珍しいコトもある、と思っていると、もっと珍しいコトが起こった。
「正門で」
 ボソリと、呟いた。
 それが「出発の準備が出来たら正門で待つ」という意味だろうと察する間に、ムスターニはすでに廊下の向こうへ消えている。
 アイツの声を聞くのは何回目だったかと思い返していると、隣で「……違うじゃないですか」呪鎖のような揺らめきを感じた。
「え?」
 あえて笑顔で振り返れば、怒気を隠そうともしないガーネ嬢の三白眼とぶつかった。
「手紙書く時間なんて、ないじゃないですかっ!」
 ああ、そんなコトも言ったっけ。
 アルベザイドは、笑顔のままで冷汗をかいていた。

   ◆ ◇ ◆



« Back | 【魔道士の塔の学徒たち】 | Next »


名言集
カテゴリ
◇小説
◇自作小説
│└ 【魔道士の塔の学徒たち】
◇ファルガイア幻想記
 ├ 【簡単紹介】(別窓)
 ├ 【綺麗な剣と壊れた銃】
 └◇短編
  ├ 【樹の上の子猫】
  ├ 【銃の思い出】
  ├ 【迷惑な幻影】
  └ 【魔族の母親】

◇更新履歴
◇自己紹介
最新記事
最新のトラックバック
リンク
ブログ内検索
RSSフィード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。