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Act.01 導師の課題 (04)


   ◆ ◇ ◆

 さらに話は変わるが、「魔道士の塔」とはキャディル王国所有の施設ではない。初期はもっと小規模の、フィード・ウィードと数人の魔法使いで始めた、ただの私塾である。彼等は後輩達の指導に適した場所として『御柱の峰』の麓を選び、たまたまそれがキャディル王国内であり、正式には国王の許可など得ていなかった。ただ『学舎』創立より三代目の王となり、誰よりの非難も苦情も得ていない、それだけだ。
 現在もその様相は変わっていない。
 よって『教授料』なるモノが存在する。
 学舎における衣食住はすべて保証されるが、それらは無料ではない。学舎を去るに当たり、入門よりの一切を請求される。学舎内の生活水準からすれば請求額は破格だが、それでもやはり貴族や商家でもない身には高額である。
 以上の理由により、学舎へ入門する人々は二種類の、魔導師を志す者と、そうでない者が存在する。後者は近隣の町や農村の子供達で、無学にさせるよりはと二、三年入門させている。それでも私営公営の教育機関より高等で安価だという。ただし魔導師を志す者は在学の長期化がなかば必然であるため、安くない代償を支払わなければならない。ゆえに彼等のほとんどは貴族商家の出身であるか、その援助を受けている。
 そしてキャディル王室御抱えの大商家より援助を受け入門した少女が一人、いる。
 彼女は多分、学舎において三番目の有名人であろう。彼女は入門四年目にして、ほんの三日前に黒衣を得た。開校以来の最短記録保持者であり『学舎一の秀才』と誉れも高い。
 彼女の名はティンク・ガーネ。まだたった十六歳の、気の強い少女であった。

   ◆ ◇ ◆

「納得できません」
 ティンクは予想通り、不機嫌でとんがった声音を披露してくれた。あまりに予想通りの反応に苦笑がこぼれそうで、ごまかす為にアルベザイドはカップを口元へ運んだ。
「休暇は後二十日以上あるのに、いきなりの呼び出しなんて、横暴じゃないですか」
 もっともな意見だ。反論できる余地はまったくない。ここで「ごめんなさい」と引き下がれば、何も面倒がない。
 それなのに、理不尽にもアルベザイドは無理を通さなければならない。
 ガーネ嬢を呼び出すほうが師の課題より難しいのではないか、と、まだ熱い香茶を楽しめない貴公子だった。
 場所は寄宿寮一階の食堂である。学徒用の食堂でこじんまりとはしているが、居心地はよさそうだ。よく使い込まれた木製の椅子やテーブルの光沢が暖かく感じる。午後の休み時間となって、幾人も教室を抜けて来ていた。それぞれが香茶や軽食などでくつろいでいる……はず、なのだけれど。
「聞いているんですかっ!」
 ガーネ嬢の棘ある声に、全員が顔を伏せて、様子をうかがっている。
 どうやら「ガーネの機嫌が直ることを待つ」ではなく「ガーネの逆鱗に巻き込まれる前に逃げ出すタイミング」を狙っているらしい。
 悪いことしたかなぁ、とアルベザイドは呑気に茶をすすった。

     ◇

 もともとが無理な話なのだ。
「課題を与えん。ティンク・ガーネを呼ぶがよい」
 師ウィードの済ました声音を思い出す。
「無理です。彼女は休暇中です」
 アルベザイドは即座に言い切った。
 ティンク・ガーネという少女がたった三日前に黒衣を受けたことは有名だ。そして黒衣を受けると通常ならば一ヶ月の休暇がもらえる。
 塔の学舎では長期休暇は貴重だ。新年ですら「雪で学舎が閉じ込められるから」と勉強三昧で、休暇らしい休暇は夏至をはさんだ七日間だけ。その夏至休暇も遠方から来ている学徒には帰郷する間などなく、大多数が寮での自習になる。
 一応、休暇の取得は自由だ。学舎では授業の出席率ではなく試験の合格のみで進級するので、極端を言えば授業を全休しても試験さえ受かればいいのである。それに「落第」も(基本的には)ないから、一つの教室に十年居座ってもかまわない。
 もっとも、本気で居座ったら別の選別を食らうが。
 ともかく入門4年で黒衣を受け「秀才」の誉れ高いガーネ嬢が、今までまとまった休暇など取ったはずはない。多くの者はこの進級休暇で帰郷し、家族や後援者へ「黒衣を受けた」と報告しに行くから、彼女も同じだろう。
 ひょっとしたら手続きやら寮の移動などでまだ学舎に居るかも知れないが、休暇中には変わらない。邪魔などしたら怒られる。
 それでもウィードは、憎たらしいほど涼やかに言う。
「導師の課題、うぬ等に与えん」
 こりゃ駄目だ。アルベザイドは師ウィードの説得をあきらめた。

     ◇

 師の説得をあきらめた故に、貴公子はガーネ嬢の勧誘に苦慮している。
 どちらも円満に断れる口実はないものか、と脳味噌が余計なことを考えたがる。その欲求に応えればしばしの現実逃避に浸れるのに、問題解決へ何も貢献しないということもよくわかっていた。
「聞いていますか!」
 ガーネ嬢は痺れを切らして繰り返す。ああ、食堂隅の子供が泣きそうだ。そろそろ押し問答を切り上げてあげなきゃ、可哀想か。
「ええと、何処まで話したっけ?」
「導師から課題が与えられるから、すぐに来い、と」
 聞こえる小声で「自分で言ったことくらい覚えてきなさいよ」ブツブツ言われたが、とりあえず聞き流しつつ、カップを置く。
「魔導師フィード・ウィードの課題だ。意味分かるかい?」
 ガーネ嬢の表情が、はじめて「憤慨」以外の表情を浮かべる。怒気はないが、難しい顔だ。強いて言うのなら、怪訝。
「師ウィードの試練は、魔導師試験の最後じゃないんですか?」
(うわぁ~、まだ残ってたんかい、その不思議伝説)
 自分も同じコトを言って師に大受けしたコトをシミジミ思い出した。
 十二賢者に上下関係はない。黒衣の学徒が誰の預かりとなるか、順番など存在しない。学徒が望めば優先されるほどいい加減なものだ。
 それなのに、何故か一般学生内で「師ウィードが最後の難関」との噂が根付いている。実際『彼』の課題が他と特別に難しいとか、そーゆーコトはない……らしい。アルベザイドも他の魔導師を知らないので、断言しかねるが。
 なにしろ、何の問題もなければ、アルベザイドは師ウィードの課題を1回目でクリアしているのだし。
(あ、なんかイヤな事を思い出しそうだ)
 アルベザイドは香茶を一口含んで、飲み下す。
 憶測だが、単なる噂が最近になって信憑性を上げているのは、学舎の有名人リザオ・ムスターニが師ウィードの課題で手こずっているからだ、とアルベザイドは思っている。
 自分自身もその噂に関係しているかも、とは考えていない所が彼の人柄を表してもいるけれど。
 ともかく、噂は有効利用させてもらうに限る。
「『その』師ウィードが、ぜひ君に来てほしいと、仰っている」
 取引では自分の持つ餌がいかに美味そうであるか、相手に信じ込ませた方が有利だ。今後幾年にわたり、彼女と顔を合わせるたびに嫌味を言われる運命になろうとも、この時のアルベザイドには有効な条件であると思えたのだ。
 証拠に、ガーネ嬢は考え始めた。背後の学友達がソロソロと移動するのにも気がつかない。泣き出しそうだった子供も、友人らしい少女に連れられて出て行った。
「私はまだ正式に「黒衣」を受けていません」
「休暇を切り上げるなら同じだ」
 ガーネ嬢はさらに難しい顔をしたが、アルベザイドは正直に出た。
「実際、どういう事情なのか、俺にも分からない。はっきりしているのは、師ウィードが君を必要としていて、しかも急を要するって事だけだ」
 一学徒が魔導師から必要とされる。この鼻薬は効いた。彼女の表情が小波のように変わり、その大部分が虚栄心で、矜持と用心深さで隠しこんだ(と思っているらしい)平静さが覆う。
 これ以上は憶測だし、アルベザイド個人では確約もできないが、もう一押しする。
「御師様の課題が終われば、改めて1ヶ月の休暇がある」
 語尾につくべき希望的観測は黙秘し、自分で詐欺師になれるかも、と思いつつ「手紙を書く時間くらいもあると思うよ」付け足した。
 ガーネ嬢は完全に黙る。故郷や後援者へ説明は立つし、むしろ指名で課題を受けるなら誉になれ恥ではない。彼女はさらに何かを悩んでいる風だったが、これ以上は彼女の事情というものだ。アルベザイドは干渉しないし、想像も出来ない。
「……わかりました」
 ガーネ嬢はとりすました顔を作る。ツンと冷たい、同年代に言わせれば「高慢チキ」な顔だ。元の造作が笑顔の一番似合いそうなのに、台無しである。
「師フィード・ウィードのお呼び出し、承ります」
「そう、よかった」
 アルベザイドは心底安心した。呼び出しに成功したので、この課題最大の難関を突破したのだと思ったのだ。
 見通しが甘かった、と、後悔したけれど。

   ◆ ◇ ◆



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