FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Act.01 導師の課題 (02)


   ◆ ◇ ◆

 その『世界』は、たった二つの陸と二つの島から成っていた。
 ゆえに、それぞれは単純に「北陸」「南陸」「神島」「中島」と呼ばれている。
 その北陸の一角に、キャディル王国があった。内海に面した小国家であり、交易が盛んな訳でなく、また特筆されるべき農業も工業も鉱脈もない。ただ別名に「魔法公国」と呼ばれるほど魔法の研究が盛んな、魔道士の集う国であった。
 一般に『神々の御言葉(ティルスール・ネイア)』を繰り奇跡を起こす者を「魔法使い」と呼ぶ。その中でも布をつけた樫の長杖を持つ者を「魔道士」と区別して呼んだ。
 魔道士はその才能と膨大な知識を有し、別に「賢者」とも呼ばれるが、彼等は国家の中核に座す。国主に忠告し、議会を補佐する、いわば国の要だ。
 魔法とは血筋でなく、才能と努力で培う。まして魔道士を名乗る者は地位と富の引き換えとして、重責を負う。
 しかし、血筋では継ぐ事の出来ぬが故に、魔道士を志す者は多い。
 キャディル王国は、領土の大半が山岳で埋まる。王都のすぐ東まで『御柱の峰』と呼ばれる大山脈が迫っており、縁は鬱蒼とした森が陣取る。その中腹、白滋色した建物が十二の塔を突き出していた。
 ただ「建物」と認識するのは少々問題がある。敷地範囲は町二つ飲み込んでしまうほど広く、地階より最上階を目指せば行き倒れは必至、という建造群であった。口の軽い人々は「キャディル王都より立派」など言う。
 その建物、一般には「東の学舎」で通じる。別に「魔道士の塔」とも呼ばれるが、正式名称はない。王国の、ひいては『世界』中から学徒を募り、魔道士の業と心得を授ける、そういう場所だ。
 王国を「魔法公国」と言わしめる基盤が、ここにある。
 学舎の門戸は、誰彼の区別なく、すべてに開かれる。入門は自由だ。ただし、卒業でき得るかは別問題である。入門生は、最初に学問を修める。地理、歴史、語学、数学、すべてを学ぶ。
 繰り返すが「すべて」を学ぶ。
『世界』にて過去より現在に残り存在し得るあらいる英知を習得する。この骨の折れる苦行を終えるには普通でも十七、八年かかる。学徒は数十分の一に激減するが、これで「魔道士」「賢者」を名乗るには充分である。
 充分ではあるが、さらに上がある。
 学舎では学問を修めた者達に、更なる課題を与える。『魔道士の塔』の別名がつくほど学舎の十二搭は印象的だが、この搭に因み、それぞれに賢者が据えられている。
 学舎の、『魔導師』の十二賢者だ。
 勉学者は苦行を修めた証として黒衣の着用を許される。その後に十二賢者の各々について修行する。賢者十二人全員より栽可が下ると『魔導師』の称号が贈られる。
 魔導師の称号の威力は絶大だ。国王すら座を譲り頭を垂れる。それ程の重みがある。
 故に、学舎へ入門する者は多いが、卒業でき得る者は稀であった。
 リザオ・ムスターニが学舎へ入門し、すでに十回目の春を迎える。彼は今、黒衣に身を包み、賢者フィード・ウィードに従事する学舎の最上級生ではあるが、ここに最大の難関が待ち構えていた。
 八人目の賢者、師ウィードに就いて学び、早一年が経過している。その間六個の課題を処理し、三件の騒動を起こしている。それなのに退学処分はおろか栽可もおりないとあって、リザオは『ムスターニ』でない意味で有名になった。
 なにしろ十二塔の西の一つを粉砕したのだから、有名にもなる。ただし、学舎は現在も塔が十二突き出ている。騒動には後日談があって、壊れた塔は一夜の内に修復された。
 リザオはボソリと言う。
「魔法だよ」
 以来、リザオ・ムスターニに関わると破壊と呪いが降りかかる、と噂になった。
 実に信憑性の高い噂である。

   ◆ ◇ ◆

 リザオは扉の前に立ち、溜息を吐いた。
 巨大な扉だった。使い込まれた木肌が光沢を持ち、技巧に凝った彫刻が一面に施されている。見上げるとちょうど、若い男女の姿をした神が腕を上下へ伸べ、雷鳴走る天と業火噴く大地を支えているレリーフがある。
 この扉の図案は、神話最初の場面『天地創造』を模していた。
 神は世界の基より天地を隔て、八柱もて支えんとするが、天重く地脆く、柱ことごとく折れ倒れた。しかるに神は言葉にて世界示し、その様に成った。
 経典の最初に、確かそんな「物語」が載っていたよな、と思う。あいにくリザオの信仰心はものすごく薄い。魔法は『神々の御言葉(ティツスール・ネイア)』を用いて行うもので、魔道士は信心深い者が多いのだが、リザオは例外であった。
 また、溜息。
「いい加減になさいませ」
 ミトランシャーネが尻尾をうねらせて忠言した。中庭から師ウィードの執務室まで徒歩一時間の行程を、従者は疾く風のごとく駆け抜け、いまだ幸いにして休み時間中である。それでも約束は正午の鐘前であったから、大遅刻は変えられない。つまりリザオは御師様から小言を食らうのが怖くて、扉前で延々と溜息を吐いている訳だ。
 往生際が悪い。
「……父上の書斎だ」
 リザオはボソリと呟いた。肩が落ち、悄気ている。それほど怖いなら約束の時間を守ればよろしいでしょう、など甘い忠告は用を成さぬので、従者は敢えて言わない。言われないので失念している、と気付くのは、もう少し後の事である。
「あの部屋も、怖かったよなァ」
 猫は聞こえぬふりをした。書斎に忍び入っては様々な物品を壊し、挙句に書斎へ近づくだけで怒られるようになった幼子の感想は、背が長じても変化なく、自業自得だと自覚するのは何時だろう。
 ……世の中には、回答を求めぬ方が良い問題も、あるかも知れない。
 従者は首を巡らせた。廊下の隅に時々人影が動いては、引っ込む。何か言い争っている声も聞こえる。彼等は師ウィードに用があるか、この廊下を通って行きたいのに、リザオが怖いのだ。本当に悪名が轟いているなと嘆息し、少し声音を落として「リザオ」往生際の悪い主人を促す。扉前などで溜息の山を築いても、事態は何ら進展しない。
 諭すか、脅すか。従者は後者を選択した。
「リザオ」
 もう一度言う。その声にリザオはビビッた。猫背気味の背中がピンと伸び、額に脂汗を滲ませ胸を抑える。主人は従者が温厚で入られる限界を充分に、身を持って知っている。リザオの心理的外傷(トラウマ)は数々あれど、たかが十七年の人生で一番最初にて痛烈な教訓は、ミトランシャーネを激怒させるべからず、これである。
 真っ直ぐ顔を上げた。従者の方は見ないように深呼吸。閉じた瞼をゆっくり開く。
 そこには、表情の失せたリザオが立っていた。

   ◆ ◇ ◆



« Back | 【魔道士の塔の学徒たち】 | Next »


名言集
カテゴリ
◇小説
◇自作小説
│└ 【魔道士の塔の学徒たち】
◇ファルガイア幻想記
 ├ 【簡単紹介】(別窓)
 ├ 【綺麗な剣と壊れた銃】
 └◇短編
  ├ 【樹の上の子猫】
  ├ 【銃の思い出】
  ├ 【迷惑な幻影】
  └ 【魔族の母親】

◇更新履歴
◇自己紹介
最新記事
最新のトラックバック
リンク
ブログ内検索
RSSフィード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。