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更新履歴

 2010年04月18日 【綺麗な剣と壊れた銃】  Act.01-04 追加
 2009年12月29日 【綺麗な剣と壊れた銃】 新規
 2009年12月08日 【魔道士の塔の学徒たち】  Act.02-03 追加
 2009年10月29日 【魔道士の塔の学徒たち】  Act.02-02 追加
[物語の簡単設定]に4件追加
 2009年10月08日 【魔道士の塔の学徒たち】  Act.02-01 追加
 2009年09月28日 ◇ファルガイア幻想記    新規
 2008年06月28日 【魔道士の塔の学徒たち】  Act.01-06 追加
 2008年06月18日 【魔道士の塔の学徒たち】  Act.01-05 追加
 2008年06月08日 【魔道士の塔の学徒たち】  Act.01-04 追加
 2008年05月28日 【魔道士の塔の学徒たち】  Act.01-03 追加
 2008年05月18日 『銀河のすみっこ』再開
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Act.01 二本の太剣 (04)


     ◆ ◇ ◆

 カザが「おじさん」呼ばわりされて女の子を蹴り飛ばした。
 昨晩、つまり凶悪男が無辜の少女へ暴挙と及んだ、夕刻。食堂に珍しく顔を揃えたメンバーは、不機嫌80%で素っ惚けるカザへ白い非難の視線を向けていた。
 いや、一人だけ視線ではなく顔色を白くして怯えている子供がいる。
 名前はワイト・ソルクス。紫色の大きな瞳を不安げに揺らす十歳の子供――に見える、齢二百を超えたエルゥの末裔。確かに魔道を極めし長寿の一族としてはワイトは子供の部類だが、精神年齢も人生的経験値も、何故か人間の子供と同じである。
 紫色の瞳は神秘的で(やや垂れ目だが)ゆるくウェーブした黒髪と良く似合い(普段は滅多に見れないが)幼いながら整った顔立ち。それなのに「可愛い」とか「美少年」とか「ショタ好み」とかの範疇から大きく逸れて「踏み外した天然キャラ」と化しているのは何故だろう?
 ……いや、考えるまでもなく彼の言動に問題があるのだが、この場では端折る。
 ワイトがどうして怯えているかと言うと、出会い頭から丸三日間もカザを「おじさん」と呼び続けた実績が彼にはあるのだ。
 まぁ(実年齢はともかく)見た目からいけばワイトがカザを「おじさん」と呼ぶのは当然であるが、カザの機嫌次第では己も蹴鞠と化したのかと、いや、元凶が執念深く覚えていれば危機は去っていない? と怯えている。
 見た目の年齢で行けば、この場で一番年上、つか大人に見えるのはカザ(現27歳)であるのだが、パーティ一番の頼れる男、ではなく、常時不機嫌の危険人物でしかない。

 ともかく。

「シズクの具合は?」
 レイガルドは一番遅くに二階から下りてきたアリスに聞く。初対面の相手を継承抜きで呼ぶなど彼にしては珍しいが、昼間の騒ぎの後遺症だろう。
 レイガルドの差異に気付いていない、もしくは気にしていないアリスは、長い紅茶色の髪をフワリかきあげ、おもむろに煙草をくわえた。
 アリス・サーヴァンツ。一見は凄みのある美女だ。赤のインナーにGパン、頑丈が取り得の厚底ブーツという出で立ちは洒落っ気皆無だが、耽美を主張する優雅なボディラインはそれすらもパーティドレスかと思わせる気品を醸し、しかし白い薄手のコートと絶えず振りまかれる煙草の灰が、戦隊モノの悪役マッドサイエンティストしか連想できない。
自称・真実の探求者(マッドサイエンティスト)』と誤解される(←訂正指導後)のは、彼女が高等魔法および古代魔法のスペシャリストであり、かつ医療全般にわたっても実績があり、魔法検定一級を取得する有能な技術者でもあるからだ。
 まぁ、その完全趣味で作り出される壊滅的ギミックが怖いというか定評を更に定着させているというか……(←要・削除)
 これらに裏打ちされた深海色の意志宿る瞳に見据えられると全面降伏したくなりそうな気分になり、下手な言い訳でも打とうものなら知識量と思考速度が常人以上の彼女に、もはや魂まで翳みそうな追い討ちを掛けられる。そして口では(頭でも)敵わぬと得物取り出し行使しようとした時には、すでに彼女の繰る特殊鋼糸『(シュン)』によりささやかな自尊心までもズタボロと引き裂かれるは請け合いである。
 このように才色兼備な彼女ではあるが、実は一ヶ所だけ弱点が存在する。
 彼女は、認めたくはなかろうが、カザと同じ27歳。
 うん、きっと「27歳はアブナイ年齢」なんて周囲に囁かれていることが、非常に不本意ではあるだろ――けど、事実である。
 閑話休題。

「状況は意識不明、かしら」
 マッチで煙草に火をつけると、溜息と共に紫煙を吐く。レイガルドは嫌な顔をすると、煙から逃げるように手を振った。非喫煙者にとって副流煙は拷問でしかない。しかしマリアは構わず二口目をうまそうに吸い込んだ。
「意識不明って、そんな重体なの!?」
 ラヴェルはうろたえた。シズクを大通りからアリスの部屋に運び込む間に、黒髪の彼女は気を失っていたのだ。目立つ外傷はなかったのに、頭部か内蔵に何か深刻なダメージでも受けたのだろうか。
 しかしそんな重体患者を放って、医者役を押し付けられたアリスは呑気に酒場で煙草をふかす。
「重体じゃない意識不明よ」
「……へ?」
 ああ、つまり、寝てるのか。
 ラヴェル以外の仲間は何となく察した。
「で、今回のコレはいったい何事?」
 察しの悪い仲間を放置し、アリスは面倒そうに流し眼をくれる。その眼にはクマが出来ていた。完全趣味(と思われる)の論文は、いまだ収拾の目処が立っていなさそうだ。その重要な作業を中断されたのだから、彼女には理由を聞く権利がある。
 少なくともアリスは権利を当然として行使するつもりだ。
 その要求が満足されるかは、この男の機嫌次第ではあるが。
「……(っくぁ)」 ←欠伸の黙殺
 カザは、丁寧に伸びまでして、無視を決め込んでいる。エリナは「女の子に暴力をふるうなんて!」小言を積むが、文字通りの馬耳東風だ。
「ともかく」
 仲間内の騒動を見やりつつ、レイガルドは年若いくせに妙に様になる重々しい溜息をつき、結論を出した。
「とりあえずはシズクが目を覚ましてからだな」
 短くなった煙草をネジ消しながらアリスは「朝には目を覚ますわよ」無責任な補償をする。それに頷き、エリナに小言を切り上げて宿屋の部屋を取ってくるように頼み、まだ納得できないでいるラヴェルと見物を決め込んでいたロギュに、診察の為にアリスの部屋に運び込んでいたシズクの移動を頼む。ソニアから「宿代は誰持ちだ?」冷静な質問が出たが、レイガルドは「詫びも込めて今夜は共同(仲間内で使う雑費用の資金。管理運用の責任者はレイガルド)から出す」テキパキと仕切っていく。
 若干23歳のレイガルド・F・フォーンス、指導者の風格である。
「んじゃ、後は勝手にやって」
 短いやり取りですでに興味を失ったらしく、アリスはさっさと席を立つ。気づけば無視を決め込んでいたカザもすでに酒場から失せている。
 ――ああ、もう一つ凶悪男とアリスの共通項があった。
 年長といえども、リーダー・スキル、皆無である。
 残念な結果だ。

       ◇

 少女は焦っていた。
 焦ってはいたが、ただひたすらにタヌキ寝入りに徹していた。
 いや実際は、確かに昏倒(アリス所見では熟睡)していたが、ベットを移された頃には意識を取り戻し、ただ一心に瞼を閉じていた。誰かが枕元にいた方がいいのでは、の議論中は「有り難いけど、勘弁して!」一生分の願掛けを浪費する勢いで、やがて「静かに寝かせてやれ」誰かの助け舟でようやく一人となれた。
 焦って、それでも用心深く、深夜、周囲が寝静まるまで待った。
 危うく本気で二度寝するところだったが、路地裏の街灯が消される時分に、静かに窓から闇深い裏道へと雨樋伝いに降りると、足音もたてずに駆け抜けた。
 幾つも路地を抜け、時々立ち止まっては背後を確認する。空若い娘が深夜の路地裏で行う行動ではない。日のある時分に目撃したら違和感だらけだが、街壁間際の寂れた通りには幸いにして人影はない。
 そうやって、やや遠回りではあったが、少女は小さな水飲み広場へ辿り着いた。
 そして、緊張感をぶち壊す声が。
「ようシズク、ご無沙汰。元気してたぁ?」
「……」
 少女、シズクが即答できなかったのは、その間延びした対応にムカついた訳でも、気のきいた返答をひねり出そうとしていた訳でもない。
「なに息切れてん。運動不足か?」
 水汲みポンプの上に器用に腰掛けて、相棒の疲労に情け容赦ない労わりを投げるのは、小柄な少年だった。小柄で童顔、声音もやや高いので誤解しがちだが、年齢で行けばシズクより一つだけ年上である。年齢詐称できそうな容姿は、しかし小柄以外の特徴がない。闇に溶けた髪は濃い色であることしか分からず、短く小ざっぱりとしている。服装もよくいる街のアルバイターといった風情で、人混みで彼だけを認識するのは難しいだろう。
「……ふざけ、る、んじゃ、ないわよ」
 ようやく息の整ったシズクが呻いた。彼女とてこんなに走り込むつもりはなかったのだが、いつまでも嫌な違和感が付きまとい、つい念入りに尾行対策をしてしまったのだ。この街には渡り鳥が多いし、関わったあのパーティの実力を考えれば、用心に越したことはない。
「いや真面目マジメ。なに、よる年波?」
「だから、ふざけないで! 偽情報を寄越すなんて、何考えてるのよっ」
 怒鳴られて、少年は目を丸くした。台詞の内容ではなく、相棒の不機嫌に驚いたのだ。
「偽情報って」
「パーティの人数が合わないし、肝心の魔法剣が2本もあったわ!」
 いや、正確には4本だ。レイガルドとカザの太剣が1本づつと、ラヴェルの持つ短剣が2本。平均的な渡り鳥パーティからすると贅沢な所持数だ。
 もっとも、この二人が探していたのは「魔法呪加された太剣」だったから、2本という表現は間違いではない。
「でも」
「わかってる、キィウ」
 シズクは溜息をつきながら相棒の名を呼んだ。その呼び方で、彼女が表現しているより落ち着いているのだと知れた。本気で激昂してくると「キーウ」と呼ばれるからだ。
 もたらされる情報が最新とは限らない。人数変動は誤差内だ。特徴多い渡り鳥集団で、黒銀狼を連れた大人数のパーティなどそうはいない。見つけるのは簡単だった。確かに彼等が探しているのは魔法剣だけど、それは目印にすぎない。本来であれば目印が2つであろうと、その先を探って目的を遂げるのがシズクの役割である。
 しかし。
「こわい、の」
 キィウは、今度こそ真剣に心から驚いた。シズクからこんな台詞が聞けるとは、夢にすら思ったことがない。
「待てマテ落ち着け。お前はアンリ・マンユすら相手取って戦おうってバカ強い渡り鳥に交じって旅してきた。直後に呼び出したのは悪かったが、宝物(ほうもつ)をちょろまかすなんてコソ泥野郎は敵じゃない」
 驚いたが、キィウは冷静だった。彼が「繋ぎ」を取る相手は数多い。ド素人の新人君もいる訳で、同じように怖気づく対応は慣れている。
 けれどシズクは混乱していない。
「『彼等』は『彼等』とも関係がある、と思う」
 混乱しそうな物言いだが、幸いキィウには意味が通じた。根拠を聞けば「バカ強い渡り鳥」集団の1人と連絡を取っていたらしい人物が、今回のターゲットの中にいるらしい。
「じゃあ、草原のマナ消失の元凶、ってことか?」
 問いに、シズクは少し迷って頷いた。
 キィウは腕を組んで考え込んだ。顔を俯かせたり、仰いだり。首まで傾げて考えている素振りだが、いまだ不安定なポンプの上に胡坐をかいている。
「よし、決めた」
 頷いて、飛び降りた。シズクを見る視線は、彼女よりやや下にある。シズクは気にしないが、キィウはいつも一度ムッとした顔をする。
「こっちでも探ってみる。シズクも「獲物」と一緒に調べてくれ。場合によっちゃ本隊が動く、かもな」
 言い終わった時には、すでに走り出した彼の背中が夜闇に紛れていた。取り残されたシズクは、またしても溜息をつく。
「つまり、現状維持ってことね」
 肩が落ちてしまったが、三度目の溜息だけはなんとか耐えた。色々と疲れてしまい、身体も脳味噌も睡眠を要求している。宿に戻ろうとして、足が強張った。
「?」
 慌てて周囲を確認するも、広場にも路地にも人影や気配はない。「疲れてるのかな」ぼやいて、そそくさと駆けだした。ともかく一刻も早く布団の中へ滑り込みたかった。

 そう、確かに、疲れていたのかもしれない。
 もしくは普通に気にするはずがない。
 屋根の上なんて。

       ◇

 深夜の宿屋で、廊下を足音を忍ばせて歩くエリナは、ちょうど階下から上がってきたらしいその人物へ、やはり声を忍ばせて尋ねた。
「あ、カザ。シズクさん見なかった?」
 彼は顔をあげ、そして怪訝な表情を作った。抜き足差し足歩いていたエリナは爪先立ちで、なんとも妙な体勢だったからだ。表情を正しく理解したエリナは「しょうがないでしょ」やはり小声で憤慨する。深夜、しかも宿屋の廊下だ。静かに歩くのは当然である。高給で洒落た宿なら床に防音を兼ねた絨毯が敷かれているが、ここは渡り鳥相手の安宿で、板張りのきしむ音に気を払わなくてはならない。
「彼女、部屋にいないの。気分でも悪くなったのかと思って。下で見なかった?」
 付き添いは必要ないとアリスに言われたが、やはり気になって部屋をのぞきに行ったらいなかった。大声で探す訳にもいかず、水でも飲みに階下へ降りたかもしれないと、探そうとしていた。
 だから、カザの返答は意外だった。
「いま帰ってくる。ほっといて寝ちまえ」
 ささやく声が低く、静かだ。違和感がして、原因はすぐに分かった。
 カザが不機嫌じゃない。
「エリナが気にかける必要はない。あいつには関わるな」
 静かに、平坦に言い置くと、カザは普段と変わらぬ動作でエリナの脇を抜け、廊下を歩き、割り当てられた部屋へ入って、戸を閉めた。
 エリナは瞬間、ゾッとした。
 カザは、声音以外は普段と同じに動いていた。それなのに何一つ音を立てていない。
 建付けの悪い階段も、軋む廊下も、手入れの悪い扉も、嘘のように沈黙していた。
 怖くなって、部屋に戻る。足音なんて気にしている余裕はない。それでも最低限に扉の開閉は注意したが、ギィギィと鳴った音に同室のシルクが寝返りを打つ。
 そのまま、扉の内側で立ち尽くす。どうしたらいいかが分からない。
 あ、シズクさんを探さないと。でも関わるなって。どういう意味だろう。帰ってくるって、何処から。こんな時間に外に出たのだろうか。何の為に。いや、きっと目が覚めて下に降りただけ。でもそれなら何故カザがあんな雰囲気を纏っている。
「あ……」
 仲間内でカザの過去を知る、おそらくただ一人であるエリナは、ようやく理解した。

 カザはシズクを「外敵」として警戒している。

 その時、キシリと木枠のきしむ音がした。
 けれど音は変な方向からで、廊下ではなく、窓側の方から。板の間、おそらく室内を移動する気配の後、またミシミシ軋んで、ベットに入ったのか、それで気配は止んでしまった。
 窓から入ってきた。シズクが?
 カザの暴行をレイガルドは咎めなかった。アリスは付添しなくていいと言った。
 二人は、何かを知っているのだろうか。
 いや、そもシズクは何者なのだろうか。

 暖かい寝床の中にあって、なかなか寝付くことができなかったのが、昨夜の話。

     ◆ ◇ ◆


名言集
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