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Act.01 二本の太剣 (03)


     ◆ ◇ ◆

「全部で十五人も居たのに、フレス村へ戻るのは結局七人かぁ」
「いや、ロギュは人って数えていいのか?」
「……つかテメェ、借金グラサンも頭数に足すな」
 ラヴェルの呟きに、レイガルドは生真面目に、そしてタヌキ寝入りしているカザまで突っ込んできた。
 驚いたけど、ラヴェルは曖昧に「アハハ」笑って誤魔化した。結局、この二人も同じようなコトを考えていたらしいと知ったので。

 ほんの数ヶ月に、目まぐるしい出来事に翻弄され、多くの人数と出合い、別れた。
 きっかけは些細。被害は甚大。ただ失態を挽回したいだけだったのに、豪快に脱線した旅の目的地で魔族と戦う羽目に陥った。
 誰も死なず、そして理不尽な犠牲を出さずに旅の終わる目処がったったのは、ひょっとして奇跡なのかもしれない。
 それでも多くの仲間と別れ、最終的に残ったのはここにいる三人と、街へ出ているはずのエリナと黒銀狼のロウギュンツァ、顛末の見届け人としてエルゥの末裔であるワイト・ソルクス(当人にその気はなさそうだが)、そして要であるリリィア。
 シルク、ソニア、アリスの三人はまだ同じ宿にいるけれど、五日もせずに別れるのは分かっている。
「なんだか、寂しくなるなぁ」
 ラヴェルの本心だったけど、今度は二人共が無言だった。見れば、カザは相変わらずタヌキ寝入りで、レイガルドは太剣の手柄へ丁寧に布を巻いている。
(否定も揶揄もされなかったんだから、まあ良しとしよう)
 そう思い直した時、唐突に背後から黄色い歓声があがった。

「うわっ! それ魔法剣ですよね!?」

 驚くのと振り返るのと茶を飲むことを一気に行い損ね、ラヴェルは盛大に咽た。ちょっと死ぬかと思い、背後の歓声が「ごめんなさい! 大丈夫ですか」詫びながらも背を摩るというか叩くというか殴るから、彼岸まで息継ぎなしで泳がされるのかと覚悟しそうになった。霞む視界の隅、カザの体勢変わらずタヌキ寝入る姿がはっきり記憶に刻まれる。

 化けて出てやる。
 この言葉は、きっと今使われるのが適当だろう。

 そんな(しなくてもいい)決心を固めている横で、レイガルドが剣を鞘にゆっくりと戻し、ようやく立ち上がってラヴェルと珍客を引き離してくれた。
「失礼ですが、何方でしょうか?」
 瀕死のラヴェルには一切構わない。この場合はそれが正解だろうけど、別の意味で物悲しさを感じる。ようやく呼吸が戻り、背後を見上げた先にいたのは、照れ笑いを浮かべている少女だった。
「えへ。ごめんなさい」
 多分、十人中九人が「可愛い」と言うだろう黒髪の彼女は、同じ黒髪のエリナとは違う雰囲気をまとっていた。エリナは「気が強い怖いモノ知らずの妹」だが、彼女は「失敗も笑って許してもらえる妹」という感じだった。
 ただ、似てないけど、似ている気がする。なにかこう、前のめりに倒れかけながら全力疾走している感じが。
 きっと、死にかけた脳細胞がまだ痺れているだけの錯覚だろうけど。
「あ、私はシズクって言います。魔法剣が大好きなんですよ。それ見せて貰えますか?」
 ポンポン弾む台詞は捉えようがなく、口をはさむ前に彼女、シズクは目的の太剣を手にしていて「へぇ~、すごーい」感心しきりだ。
「……よくそれが魔法剣だってわかるね」
 何気ない質問に、シズクはとびっきりの笑顔で応えた。大事そうに剣を抱き、ラヴェルの隣の席に陣取る。それはレイガルドとの間の席で、カザの向かいである。どうしてそこが一番安全だと分かるのだろうか。
「ほら、鞘に意匠があるでしょ。これはその筋じゃ有名な、出荷元の分からない技物なんですよ。とても変わった素材が使われているし、大概が優秀な魔呪を付加させてあるんです。これはどんな効果が?」
 淀みない口調で、本当に好きなのだろうな、と感心する。魔法剣と言えば素人はゴテゴテに飾ってあるものだと思われているが、実戦で役立つ魔法剣ほど既製品と大差ない。細かな目印を見つけ出して探究熱心。なにか専門的な商売にでも関わりがあるのだろうか。
 己の獲物をあっさり取られてしまったレイガルドは、軽く息をつくと、また自分の席へ座る。手入れをしていた品を片付けて、質問になかなか答えようとしなかったのでラヴェルが代わりに口出しした。
「重量の割に手応えが軽いんだってさ」
 軽量化? 効果を半永久的に付加させるって、どうやってるんだろう。魔玉はないし、特殊な紋様もナシ。埋め込んである? でも強度が……と、ラヴェルには理解できない呟きが続き、唐突に聞いてきた。
「この剣、振ってみてもいいですか?」
 とっても嬉々と言われたので「どうぞ」頷きそうになったが、レイガルドは冷静に「宿屋の食堂で振り回すモノじゃない」却下した。
「じゃあ、裏庭で。そっちのおじさん(カザ)の剣も貸して下さい。比べてみたい!」
 椅子に立てかけてあるサイズが同じ太剣を、目聡く気がついたらしい。本当に嬉しそうなので悪い気もしたが、事実は教えてあげないといけない。
「ごめんね。そっちも魔法剣なんだよ」
「え?」
「同じ工房だし、効果も一緒だって。比べられないよ」
 見てみたが、カザの鞘には意匠がなかった。彼は少し変わった帯剣をするので、鞘は自前なのかもしれない。だいたい、レイガルドはともかく、あ・の・カザが、自分の獲物を他人に貸すとは思えない。代わりにラヴェルの師匠からもらった防御の短剣を見せてあげようか、と思っていると。
「……え?」
 妙に間の抜けた声が、もう一度聞こえる。視線をシズクに戻すと、青褪めるほど驚いているらしい。
「どうしたの?」
「魔呪付加の太剣が、二本?」
 おかしな驚き方だ。なんだろう、違和感? を感じる。
 魔法剣が大好きなら、二本もある、と喜ぶと思った。または二本ともが効果もサイズも同じ太剣で残念がる、かと。
 シズクの驚き方は、どちらでもない。まるで、魔法剣は一本しか存在してならないと、信じ込まされているような。

 と、視界の隅で何かが動いた。見ればそれはカザの足で、ようやく机下に足を納める礼儀を思い出したと呆れたのに、あろうことか、カザはそのまま靴底を机の縁にあて、思い切り蹴り出したのだ!
 二人は咄嗟に動いていた。それぞれの行動を知ったのは惨状の後で、ラヴェルはカモミールのまだ半分残るカップを、レイガルドは手入れ品を左手に、右手は己の太剣を素早くシズクから取り戻しており、んじゃ彼女はと言うと……
「ぶぎゅっ!?」
 変な悲鳴とともに、イスと机のクッション材と化して一緒に吹っ飛ばされていた。派手な音が聞こえたのは表の通りからで、ラヴェルは慌てながらもカップを隣の机に置いてから飛び出していく。
「シズク、しっかりして! レイガルド、アリス呼んできてよ! わ~! ダメダメ、そこは違う……あぁっ!」
 なにやら派手なことになっているらしく、食堂にはゴン! とか、ガン! なんて濁音が聞こえてくる。
「いったい何事だ?」
 レイガルドは、台詞の割に穏やかにカザへ疑問を向ける。しかし「カヨワイ少女を家具ごと蹴り飛ばす」なんて凶悪をなした元凶は、軽く肩を竦めただけで言い訳もなく立ち去ってしまう。向かうのは宿の二階のようだが、賭けにもならない事実として、アリスを呼びに行ったのではなく、割り当てられた部屋に引っ込む気なのだろう。
 まぁ、いつも通りの反応だな、なんてレイガルドは思ったわけで。

 この騒動が、昨日の昼過ぎである。

     ◆ ◇ ◆


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Act.01 二本の太剣 (02)


     ◆ ◇ ◆

 ラヴェルは適当な理由をでっちあげると、裏庭を離れて宿屋に入る。
 剣戟が聞こえなくなった途端、つい溜息が出てしまった。

 エリナの機嫌が悪い。

 平常を装ってはいるが、自分に正直な彼女のこと、感情の起伏はとても変化に富んでいる。普段は決まった時間に起床して元気一杯の挨拶をして回るのに、今朝は妙に早く起きだして、むっつり黙りこんで朝錬を見ている……ふり、を、している。
 感情に正直な彼女が、静かに怒りをためている。
 見ていて、非常に怖い。
 気を逸らしたくて、同じに朝錬を見に来ていたシズクに話しかけてみたけれど、どうやらラヴェルの言動がさらに不機嫌を煽っているらしく、非常に居心地が悪い。
 何も知らぬシズクを残すのは気が引けたが、対処不可の事態に逃げ出すので精一杯だ。
 それに、何故かレイガルド達の機嫌も悪い。
 機嫌、とは違うかも知れないが、ともかくピリピリ気が張って、とてもじゃないが落ち着けない。緊張しているというか、警戒しているというか、そんな感じだ。
 カザなんかは、いつでも変わらずに不機嫌だけどさ。

 まぁ確かに、自分達がいまグラスタウンに留まっているのは、不測の事態ではあるけれど。

       ◇

 グラスタウンは、ファルガイアの東大陸において、さらに東に位置する。
 東大陸中央部に広大な草原地帯があり、その東縁にある、街道が幾筋も交差する要であり、すぐ近くにマナが濃厚な「迷いの森」を持つ、信仰篤い聖都だ。
 もっとも、パーティの某「真実の探究者(ヘソ曲がり)」に言わせれば「この場を選んだのは(いにしえ)のエルゥであって、物知らずの人間は意味なんか知らずに便乗しただけよ」とのこと。
 陰でこっそりと「アリスさんって人間じゃないんですか?」などと問題発言をした(正真正銘の)エルゥの末裔がいたようだが、毎度のコトなので仲間内では聞き流された。
 ともかく、その「街中ではお行儀良くしててね!」とクギを刺されなければならない聖都グラスタウンは、街の規模が大きい。
 イワユル、荒野を渡り歩く「渡り鳥」に言わせれば「利用できる施設が充実している」街、ということになる。
 当然、宿泊込みでグラスタウンに立ち寄る渡り鳥は多い。街壁沿いの安宿街に彼等がたむろすのは常であるし、ラヴェル達もパーティとして街を利用するのは二度目だ。
 グラスタウンは、来訪者を拒まない。

 それなのに、何故グラスタウンに留まっているのが「不測の事態」かと言えば。

 ラヴェル達のパーティの一員に、リリィアと名付けられた一歳にも満たない赤ん坊がいるのだが、彼女が、少々困った環境に追い込まれている。
 一時は生命さえ危ぶまれ、緊急時に最短距離にあったグラスタウンの「ツテ」を頼ることとなった。面倒な選択(正確には保身ゆえの苦渋)の末、医術にも古代魔術にもマナにも詳しい「ルーフ」氏の処置で快方へ向かった。
 容体は安定したものの、しかしまだ長距離の移動は不安であり、もう数日の安静が必要らしい。

 そーゆー「不測の事態」故の現状だから、観光気分でお気楽モードに浸れるはずもないけれど、それでも最初は保養を兼ねてのんびり過ごすはずだったのだ。
 なにしろ、傍から聞けば冗談にしか聞こえないだろうが、ほんの数日前に、彼等は世界崩壊の脅威と戦い、死にかけたのだから。
 本気で冗談にしか思えないから、詳細は省くど。
 リリィアの状態が安定するまでは「某氏の逆襲」を(本心から)恐れたパーティだが、かの保護者魔族はすでに別行動中だ。再び合流の約束はあるけれど期間は二カ月も後である。
 以上の経緯により、グラスタウンの安宿に落ち着いた彼等は呑気に構えていた。

 昨日までは。

       ◇

 事の発端は前日の昼過ぎへさかのぼる。

 仲間で宿泊する宿一階の、酒場も兼ねた食堂で、ラヴェルとレイガルド、それとカザが屯っていた時だ。エリナ達のように買い物へ出るでもなく、部屋に篭るでもなく、茶なんかを啜りながら、日当たりのいい窓辺で時間を潰していた
 ちなみに、このグラスタウン裏手の寂れた安宿を決めたのはカザだ。
 名前を『緑の落とし穴亭』という。
 渡り鳥相手の宿屋は大抵が変な名前だが、この宿も御他聞に漏れずセンスが悪い。意匠は落とし穴へ頭から落ちる男の様子をデフォルメしたもので、宿の名前らしい意匠ではあるけれど、なんの由来があるのか聞きたいとは思わない。もっともカザはこの(冗談のような)意匠を気に入ったらしく、宿屋前で馬鹿笑いをして、仲間の宿泊先をココと強引に決めてしまった。
「前の所でいいじゃない」
 ラヴェルは独り言のように呟いた。小声になったのは、どうせ何を言っても自分の意見は通らないだろう、という学習結果による。
 彼等は、メンバーはもう少し多かったが、ほんの十日前にもこのグラスタウンに数泊している。その折に少々騒ぎがあり、顔を覚えられているであろうパーティが居づらい、とか可愛い理由ではない。
 そんな細かい神経では渡り鳥は務まらない。
 要するに、純粋・単純に、カザの気紛れである。
「文句あんのか」
 カザはラヴェルの独り言へきっちりと睨み返してから、さっさと宿へ入ってしまった。ラヴェルは深い深い溜息をつき、すごすごと続く。その他メンバーにしても文句はなかったらしく、いや女性陣にはやや不評だったが、ともかく渡り鳥のパーティとしても大人数の六人と子供二人と見慣れぬ獣一匹は、この宿へ腰を据えた。

 とは言え、本格的に休息体制を取っているのは食堂に屯る三人だけで、他メンバーは新しい出発準備に忙しい。
「ソニアとシルクは、ここでお別れだね」
 蜂蜜のたっぷり入ったカモミールをゆっくりと飲むラヴェルは、返事はあまり期待せずにそう切り出した。別にお喋りをしたかった訳ではなく、あまりに穏やかなティータイムなので、眠くなってきたのだ。このまま居眠っても不都合ないが、あとでカザから嬉しそうに嫌味を言われるのは避けたい。
「ああ、シルクの親類を捜すそうだ」
 太剣の手入れから顔を上げなかったが、レイガルドは律義に返事をしてくれた。隣でテーブルの上に足を投げ出しているカザは完全無視だ。ちらりと見れば、椅子の背にもたれて目を閉じている。腕組みした胸は規則正しく上下しているが、これで寝てないって詐欺だ。ひょっとして本気で寝ているかもしれないが、案外と周囲の音を聞いている。
 例えば、注文した飲み物にどんな追加注文がされたか、とか。
 きっと「お子様味覚の甘党」とか揶揄られるのかと重暗くなるが、太剣の柄を組み立て直しているレイガルドは、先の返答のような気軽な気配りをしてくれない。作業を邪魔しない程度なら付き合うが、それ以外じゃ自分で解決しろ、と、放任主義の自己責任を求められている。
「ソニアは、シルクのデバイス狙いだろうがな」
 しかも辛辣だ(汗)
 大方の仲間内では同様の感想を持っていたが、正確な言葉とするレイガルドの度胸は鋼でできている。天然ボケ発言するメンバーは豊富だけど、彼の場合、正確に事実を指摘している分、性質が悪い。
 でも確かに、シルクやソニアの場合、この命懸けだった旅に、本来なら参加義務はなかったのだ。子供のシルクはただの迷子で(「迷子」していた場所が問題ではあったが)街などの然るべき施設で保護してもらえばよかったのに、彼女の「植物と話せる」特技や遺品だという高性能の感応デバイスの戦闘力を期待して、ついつい今まで連れ回してしまった。しかしシルクはまだ庇護も基礎勉強も必要な子供であり、その面倒をみようというソニアは義理堅い性格である。
 ソニアは優秀なアームマイスターで、ARMSの新技術を求めて遺跡探査をしている最中に(不運にも)旅の発端となったマナ消失事件に巻き込まれただけだ。本来なら責任や義務もなかったのに、危険な旅の最後まで付き合ってくれた。
 故に当然のように最終目的地であり出発点でもあったフレス村まで同行するつもりだったらしいのだが、足止めの雑談中にシルクの父親の知り合いがグラスタウン周辺に住んでいるという話が出て、急遽の変更となった。
 だから「デバイス狙い」という彼女の目的は、本来の三割程度だと思う……多分。

 脱線するが、ソニアやシルクに義務がないと言うラヴェル本人にも、根本的な意味で、同行義務も身体を張る義理も存在しなかった。
 他人は庇うくせに、当人は完全に忘れ去って(後々で)嘆く、というのが「ラヴェルの健忘症的墓穴」と評される性格である。

「アリスは論文書き上げるって意気込んでたけど」
「何を何処まで書く気か知らんがな」
 部屋からほとんど出ようとしないアリス・サーヴァンツを心配しつつ、レイガルドの心配している事も分かる。今回の旅にまつわる事柄を、下手に克明に記せば多方面へ影響が出る。特に非合法組織の幾つかも絡んでいるから、アリス本人ばかりでなく、パーティに関わった人々までも危険に晒すだろう。
 でも、多分、大丈夫かもしれない。
 レイガルドはもちろん危惧を明確な言葉にしてアリスへ伝えたが、アリスは軽く「そんなヘマしないわよ」返していた。その気負いない態度に「ありゃ常習犯だな」ボヤいたのは誰だったか。

     ◆ ◇ ◆


Act.01 二本の太剣 (01)


     ◆ ◇ ◆

 男2人が安宿裏の空地で、刀身が1mもあろうかという太剣を打ち合っている。
 喧嘩ではない。真剣を振り回しているのだから緊迫感はあるけど、乱打ではなく、互いが一定パターンを順番に繰り返しているだけ。1クールが8分ほどもあるが、見物を始めて3順目ともなれば、目も慣れたけど。
「……よく飽きないなぁ」
 エリナは、この朝2回目の溜息を「ふぅ~」と噴出した。
 一見、美少女である。肩までの艶のある黒髪は青味のある光沢をしており、小麦色の肌は健康的で、栗色の大きい瞳はクリクリしている。小柄で、素直に伸びる手足も細い。宿の勝手口の階段にチョコンと座っている姿は可愛くて、世の健全な男性なら庇護欲をそそられるだろう。
 一見、では、あるが。
 その幻想は、彼女が抜身の長剣で肩を叩いている段階で霧散する。片刃の細長い剣はこの地域では珍しく、異邦では「ニホン刀」と呼ぶ。よく見ればまっすぐに見据える瞳には明確な意思が宿っており、心得ある人物なら下心は捨てるだろう。
「早く私にも稽古付けて欲しいのにぃ」
 ブツブツ文句を投げているのは打ち合っている2人へで、彼等はエリナの知り合いだ。というか、旅の仲間だ。
 1人はレイガルド・F・フォーンス。革鎧を上着のように着こなして、洗練された動作は優美とすら見れる。金に近い薄茶の髪は中途半端で収まりの悪い長さではあるが、身嗜みに気を使うのが礼儀とする彼がボサボサ頭などするはずがない。上背は何気に高い。それでも見下ろされる威圧感を感じないのは、緑の瞳が優しいからか。しかし刃が厚く長い太剣を繰る技は機敏で無駄がない。
 もう1人はカザ。ただのカザ。彼の操る得物も太剣だ。レイガルドの太剣と同じく、軽々と操っている。レイガルドとの違いは、彼の方が軽装というところか。鎧はなく、上着の黒デニムに鎖帷子が仕込まれているのを仲間は知っているが、それ以外の目立つ防具類はない。革ズボンに編上げブーツと、動きやすさを最優先した服装だった。

「レイガルドはともかく、カザにあーゆー動作ができるなんて思わなかったけど」

 エリナの隣で、ラヴェルが感心したように言う。その発言にエリナがチラリと(やや冷たい)視線を投げるのだが、ラヴェルには意味が分からない。栗色の瞳でキョトンと見返され、エリナはまた剣戟を見るフリで視線を正面へ戻す。
 ラヴェル・ランフォード。自身を「冒険の初心者」と評している。我を張り合うのが常の渡り鳥でありながら「地味」をモットーとしており、髪も瞳も好みの服も茶色固めという「歩く地味標本」である。
 ――のではあるのだが、けっこう常識的に的確な行動とか、それなのに思慮に欠ける天然ボケ発言とか、ミスマッチな違和感が目立つのだ。年齢は19歳でエリナより3歳も年上なのに、2ヶ月も旅を共にして、気分はすっかり「手のかかるタメ友」と化していた。

「あーゆー動作って?」

 見物人2人の間に、無邪気な声音がふってきた。ラヴェルは慌てて立ち上がる。この場に居るのが仲間内だけではないことを、ようやく思い出したらしい。
「あ、ごめんなさい! 女性を立たせたままで」
(そっちっ)
 エリナの眉が痙攣したコトなど知らぬラヴェルは、傍目にはイソイソと自分の座っていた石段を勧める。座布団代わりに自分の(茶色い)マントまで敷いてやり、そんな気遣いはエリナに対してはなく、それはそれで腹が立つ。
「ありがとう♪ あ、どっちがレイガルドで、カザなの?」
 彼女の方も遠慮がない。毒のない笑顔で他者のテリトリーへ躊躇なく踏み込んでいる。エリナは(苦手なタイプだなぁ)思ったが、自分も同類であることには気付いていない。
 もしくは、この時期だから「苦手だ」と思うのかもしれないが。
「レイガルドは革鎧のほうで、カザは黒尽くめで凶悪そうなほう」
 しかしラヴェルは、エリナの緊張感と無縁らしい。嬉しそうに仲間を紹介していく。
「彼等がやっているのはハモキって剣術の形(かた)だよ」
 彼女は「聞いたことないけど」子首をかしげる。黒髪がサラサラと流れた。艶のわりに強い髪質であるエリナの黒髪と違い、彼女は柔らかな絹糸のようで、光沢は銀だ。肌は雪のようで滑らかだが、服装は長旅に痛みかけた厚手の布。日焼けしにくいのか、シミもない。瞳は好奇心がキラキラ輝く水面のよう。年齢はエリナとラヴェルの中間ほどか。警戒心のない笑顔が気安い。
「僕も詳しくないけど、太剣の剣術なんだって。あ、「形」ってわかる?」
「うん。流派の基本的な動作だよね」
 のほほんと笑顔の会話は続いている。
 エリナは聞き耳を立てながら、また溜息をついた。
「ハモキ」が東陸の流派ではないコトは、多少知識があれば分かること。逆に「ハモキ」を知る彼等の素性が少し変わっているコトも、分かってしまう。
 何気ない会話でも、情報の宝庫だ。
 そこまで考えて、また溜息が出た。
 やっぱり、少し神経質になりすぎだろうか。

     ◆ ◇ ◆


名言集
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