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【 樹の上の子猫 】

 リレー小説『ファルガイア幻想記』より派生した、カザの過去編・1
 話は四年前、カザが初めて「渡り鳥」の仕事をやった、ささやかな事件です。

   ◆ ◇ ◆

 物事の始まりなど、えてして些細な出来事だ。
 のちに「カザ」と名乗る青年が、ある町で小さな少女と出会う、など、日常の中であれば、別に珍しい事件などではない。
 そう、少なくとも少女にとっては、少女が普通の子供よりも豪胆、ありていに言えば恐いもの知らずであったと、それ以外には特に珍しい出来事ではなかった。

「あなた渡り鳥でしょう? 困っていることがあるから手伝って欲しいの」
 街角で、少女は偶然通りかかったらしい青年に声をかけた。せいぜい十歳程度の、普通の町娘だ。対して青年は、ちょっと見、性別の判別に迷うかもしれない。少女を見下ろす面差しは端整で、焦げ茶の腰まである長い髪には丁寧に櫛が入り、清楚だが趣味のいい髪留めで止めてあった。
 しかし、少女は青年が「男」であると確信していた。直感であったが、正解である。
 それになんの感情もうつさない薄茶の瞳で相手を無遠慮に眺めるなど「淑女」の基準から程遠く、少女がとるべき対応は、あまり性別によって違いはなかったかもしれない。
「ちょっと! 聞いてるの?」
 少女が憤慨する声に紛れるように、青年が「何を」ささやきを返した。
「あたしの話を、よ!」
「聞いている」
 青年は少女の糾弾に、やはりささやくような声音で返した。この返答にも満足しなかったのか、少女は「座って。話し辛いから」注文をつける。
 果たして青年は、言われた通りに少女の前に膝付いた。ちょうど、少女が青年を少し見下ろす格好になる。
「そうそう、依頼主は大切にするものよ」
 相手が言う通りに動いてくれるのに気を良くしたか、少女はエッヘンと胸を張る。
 青年は無表情で、静かな瞳でただ少女を見据えた。
「仕事、とは?」
「運んで欲しいものがあるの」

 青年は肩で息をしていた。見てくれから余り頑強そうな印象は受けなかったが、少女は予想通りの結果に「非力な渡り鳥ねぇ」率直な感想を言った。その評価に対して、青年は初めて感情のこもった反応をした――睨み返したのである。
「こんなに荷物を運ばされたら、誰だって息ぐらい切れる」
 一本の樹の根元に、様々な家財道具がうずたかく積み上げられていた。クッション、座布団(?)、ソファ、ペットのスプリング。およそ「柔らかい」思われる全ての物品だ。
 しかも少女は指示しただけで、坂上の彼女の家からこれらを運び出したのは青年一人だった。
 少女は青年の労働成果を無視して、樹の上へ声を張り上げた。
「ほら、もう怖くないわよ! いい加減に降りていらっしゃい」
 見上げると、樹の高い枝先に小さな猫がいっそうに身を丸くして下を見下ろしていた。
 白と茶色と黒のまだら、いわゆる三毛と呼ばれる毛並みの小さな猫、たぶんまだ子猫のようで、そいつが一匹で樹の上からこちらを威嚇しているのだ。
「早く降りてらっしゃいってば!」
 青年は声を上げる少女の足元、自分が苦労してここに積み上げた物品を見渡して、溜息をついた。
 つまり、降りてくる子猫が怖くないように、怪我をしないようにとの配慮なのだ。
 けれど人間の思惑など猫の感知する範囲ではなく、いまだ子猫は樹の上、枝の先で震えている。
 もう一度溜息をつくと、青年は次の行動を起こした。
 樹を、登りはじめたのだ。
 その樹は立派な、幹も太いふるい樹だ。しかし街中、通行の邪魔ということで、大人が腕を伸ばすより下の枝はすべて払われて、木登りのための手掛かりも足場もなかった。しかしその樹を道具もなしに、青年はヒョイヒョイと登っていき、簡単に子猫のいる枝元までやって来た。が、子猫がいるのは細くなった枝の先。いかに青年でも、体重で枝が折れてしまう。
 子猫も青年に気がついたか、いっそうに威嚇して、逆効果的にさらに枝先へ後退してしまった。
「馬鹿ぁー! なにやって……」
 罵倒の言葉が、途中で止まる。青年が人差指を唇に当てて「静かに」というサインを出したのだ。
 と、何を思ったか、青年は枝の途中(彼の行くことが出来るギリギリの距離)で、ゴロンと寝そべったのだ。まるで大型獣が枝上で昼寝を楽しむかのように。
 少女が見守る中、最初は微動だにしなかった子猫だが、やがて警戒を解いておずおずと青年に近付いていく。伸ばした指先に、子猫の湿った鼻先が触った。サリリっと、ざらついた猫の暖かい舌が青年の手の甲を舐める。青年はゆったりと頭を上げて、子猫の顎下をなでてやる。子猫はゴロゴロと機嫌よく喉をならした。そのまま青年の手の中にすっぽりと納まっても、安心しきったように背中や小さな頭を擦りつける。
 青年は子猫を抱いたまま、ふわりとその場所から飛び降りた。少女の横に着地したが、まるで音を立てず、ひょっとして子猫の親はこの人かと、半分真面目に考えてしまった。
 その時、街中を見回っていた憲兵が二人へ声をかけた。

「じゃあ、怪しい人は見なかったんだね」
 憲兵は二人から、主に答えたのは憲兵が姉妹と勘違いした妹の方で、色々聞いて、立ち去った。
 去り際に「人殺しがうろついているんだから早く家に帰りなさい」言い置いていった。
 少女は、ろくに口を聞かなかった青年が姉と間違われたのは察したようだが、訂正はしなかった。
 説明が面倒臭かったのである。
 それに子猫が青年の腕の中で大人しく納まっていたので「悪い人じゃない」と子供らしい基準で判断したことにもよる。
「……この街は物騒なんだな」
 憲兵を見送って、青年はやっと口を開いた。女と間違われたのに、別に怒っている風でもない。ひょっとして、本当は女なのかも、とも思う。
「うん。えらい人達が、誰が一番えらいかって、喧嘩してるんだって」
 つい半時ほど前にも「喧嘩しているえらい人」の一人が不審な死を遂げ、現場から立ち去る見慣れぬ人物が目撃されている。憲兵はその人物を暗殺者として探してはいるが、人相風体が判らぬとあって、不審人物を片っ端から調べるしかない。
 いい迷惑をこうむったのは渡り鳥で、いま役所の留置場は彼等であふれていた。
 青年は少女の姉と憲兵に誤解されたことで、嫌疑がかからなかった。
「ほら、もう自分で戻れないようなところへ行くんじゃないぞ」
 言って、青年は子猫を少女に渡そうとする。しかし嫌がった子猫は少女の腕に納まる前に、青年の腕を引っかいて、路地向こうへ走り逃げてしまった。
「君の飼い猫じゃないのか?」
「うん、そう」
 少女はあっけらかんと答える。一時間も前から樹の上で子猫が鳴き続け、気になって、下ろしてあげたい、そう思ったそうだ。そこで「柔らかクッション作戦」を思いつき、たまたま通りかかった渡り鳥に見える青年に荷物運びを頼んだ。
 青年は納得したのか、してないのか、ともかく一つ頷いた。
 と、つかさず少女の指示が飛ぶ。
「ほら、ぼさっとしない! 散らかした物は自分で片付ける!! 基本でしょ」
 青年がもう一度息を切らすことになったのは、言うまでもない。

「ご苦労様。はい、依頼料」
 少女が息切れしている青年に渡したのは、たったの10ギルだった。しかし少女にとって、これは貴重な10ギルだ。なにしろ今日のおやつは、これでパーなのだから。
 そしてこの10ギルは、青年にとっても貴重な10ギルとなった。
「どうしたの?」
 青年が掌のコインをいつまでも眺めているので、少女は不思議に思ったらしい。
 青年はただ「いや」素っ気なく答えたが、未だコインを見続けている。
 ひょっとしてそれほどお金に困っていたのかしら、と少女は思ったが、もちろん違う。
 青年にとって、人を殺さずに手に入れた、初めての10ギルだったのだ。
 掌をゆっくり握りしめ「ありがとう」言う。目を細め、口の端を上げ「微笑み」という表情を作った青年に、少女は嬉しそうに「やっと笑った」無邪気に笑い返す。
「こちらこそ、ありがとう。猫を助けてくれて」
 言って、コロコロ笑いながら走り出す。途中で振り返って、大声で聞いてきた。
「渡り鳥さぁ~ん。名前、なんていうの?」
 青年はすぐに答えようとして、数瞬黙り、次によく通る力強い声で答えた。
「カザだ!」
 少女はまたコロコロ笑いながら「聞いたことない名前!」憎まれ口を叩きつつ、走っていく。
 それを見送って、青年――カザはもう一度、掌のコインを見つめた。
 知らないのは、当り前だ。彼がこの名を名乗ったのは、この時が初めてなのだから。
 しかし……
(こんな生き方も、うん、悪くない)
 掌のコインは、まだ温かい。少女がずっと握りしめていたのだろう。その温もりを逃がさぬよう、カザは掌を閉じる。そして街門へ向かっていたはずの行き先を、渡り鳥の集う宿へ変更した。
 そこで、何か仕事にありつこう。また誰かが、カザの知らない感情を見せてくれるかもしれない。

 ――そんな生き方も、悪くない。

   ◆ ◇ ◆

 いやぁー、メルヘンですねぇ。カザ、似合いませんねぇ(笑)
 書いていて(自分でも)かなり背中がかゆかった(笑々)
 まあ要するに、カザがどれだけ行き当たりばったりな奴か、というのが言いたかっただけです。

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