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【 迷惑な幻影 】

 リレー小説『ファルガイア幻想記』より派生した、カザの過去編・3
 幻想記開始直前で、カザが酒場でクダ巻く話です。
 不思議現象な話ですが、理屈なんか深く考えないで下さい。
 微妙に【銃の思い出】の続きです。

   ◆ ◇ ◆

 伸ばした手は、とどかなかった。
 あと、たったの半歩。それだけの距離が、あいつの運命を分けた。
『殺された父さんの仇を討つんだ!』
 そう言っていてた少年は、しかし目的を果たす事なく、自分一人も守り切れずに死んでしまった。
 俺の指先、たった半歩の、目の前で――

   ダンッ!

 ……気がつくと、俺はグラスをカウンターへ叩き付けていた。
 マスターは、もう文句を言う気もないらしい。ただ黙ってグラスを磨いて、見ぬ振りをしている。
 俺の目の前には酒瓶が置かれ、つまり一人で勝手に飲めと、そういう事か。
(そーとー不機嫌な客だ、と思われてんな)
 手酌で酒を注ぎ足した。たしかに、誰かと酒を飲みたい気分じゃない。
(( オマエ ハ 見捨テタ ンダ ))
 声に、ちらりと振り返る。そこに立っていたのは、誰もいるはずがない。
 しかし、俺にはあの少年が、ボロボロの姿で立っていると、そう見えた。
(( 俺ヲ 見殺シニ シタ ))
 ……そうかもしれない。
 あの商隊でエジャヌ湿原を越えるのは、最初から無理だった。損害が出ると、予想されていた。だから少年が死んだのは仕方がない、と、それは言い訳にはならない。
 俺は、少年を助けられた。――あの時に、自分の命など惜しまなければ。
「それは違うわ」
 声に、隣を見る。そこに、たっぷりとした栗色の巻き毛を上品にまとめた、若葉色の瞳の女性が腰掛けていた。
「あなたは、精一杯をやったじゃない」
 俺は、彼女を無視して酒を呷る。――どうせ、ちっとも酔えはしないのに。
「生き残ったことが、死者への罪悪にはならないわ」
 彼女の柔らかい声は更に続けたが、俺は聞いていなかった。
(( オマエ ハ 俺ヲ 殺シタ ))
「うるさいわね! この人はそんなコトしないわよ!!」
 彼女の糾弾に、少年はケタケタと、耳障りな濁声で笑った。
(( 俺ハ 死ンダ ソレ ガ 証シ ))
「『あなた』は『彼』じゃない! あの子は、ちゃんと知ってるわ!!」
 彼女の鋭い声に、少年は一瞬で崩れ去った。
 だが、消えただけだ。濁声は、遠くでこだまの様に響いている。
「……俺が、殺した。それは事実だ」
 呟いた言葉に彼女はきつい視線を投げて、ついで顔を伏せると「水を一杯ちょうだい」いう。
 マスターに頼み、水は俺の斜前に置かれた。果たして、マスターに見えたのか、それはわからない。
 ―― たぷん ――
 コップの水面が一瞬、しかし大きく揺れた。……誰も手など触れてもいないのに。
「……っい、いまの、なんです!?」
 焦るマスターに素っ気なく「さあ?」返し、酒を、面倒なんで瓶ごと飲み始めた。
 実際のところ俺にもよくわからない。ただ、少年は、最期に親の仇を呪ったわけでも、自分を助けることもできなかった俺を怨むでもなく、ただ思ったのだ。
(( キレイな水が、飲みたい ))
 魔物の爪に胸を抉られ、泥水の中に倒れながら、少年は、ただそう思った。
 そして、いま、望んだモノを手に入れた。
「あなたは、誰も殺してなんかない。私が知ってるわ」
 彼女は静かに、しかし執拗に言い募る。俺は目をつぶり、吐き出すように呟いた。
「俺は、殺したんだ」
「違うわ」
 彼女は即答する。それでも、俺は事実を知っている。
「おまえは、俺が、殺したんだ」
 覚えている。剣が肉を切り裂く感触。溢れ出す重い血の臭い。最期に俺にすがった、彼女の手。驚愕に瞳が見開かれ、ついで不可思議に笑み、何かささやき、事切れた、そのすべてを覚えている。
 それなのに、いま俺の目の前にいる彼女は驚いて、いつまでも納得しない。
「うそよ、そんなコト。私はここに、いるのに」
「俺が殺して、おまえは死んだ。……もう、4年も前だ」
「うそばっかり」
 彼女はクスクスと笑う。その笑い声は、俺以外の誰の耳にも届かない。
 もう死んでしまっているから、彼女には理解できないのだ。
 ――自分が死んでいる、そのことが。
「あなたは、優しいもの。そんなことするはず、ないもの」
 彼女は、最期になにを望んだのか。俺には、それだけがどうしてもわからなかった。

「僕はグラスタウンへ行く途中なんです」
 声が、雑踏に紛れそうに、それでも聞こえた。顔を上げると、俺とは反対側のカウンターに、一人の青年、少年と呼べそうな年若い男が周辺の地理をあれこれ聞いているところだった。
「ここからだと、どう行くのが近いでしょうか?」
「う~ん、エジャヌ湿原を越えることになるなぁ」
「難所なんですか?」
「二ヶ月前に、通り抜けようとした商隊が大被害を受けたよ」
「……迂回はできないんでしょうか?」
「迂回すると二週間はかかるよ。抜けるだけなら三日かそこらなんだが」
 青年は考え込んでしまったようだ。俺は椅子から立ち上がる。
「やめなさいよ。あんな哀しい場所に戻るなんて」
 彼女の制止を背中で聞きながら、無視した。
 青年の隣にガタリと腰掛け、そして言う。
「よう、グラスタウンまでのガイドは、どうだい?」

 それが、俺にとっての物語のはじめである。

   ◆ ◇ ◆

 カザは昔に裏稼業をしていて、イリューシャさん一家を殺したことがある。
 殺した相手から恨まれるはずが、何故か彼女だけは「あなたは悪くない」言い続ける。
 カザの正気は、果たしていつまで「もつ」のでしょうか。
 ……しっかし、霊感体質なんかね、コイツ(←無責任)
【銃の思い出】から『ファルガイア幻想記』へ、そして【綺麗な剣と壊れた銃】へと続く橋渡しとなる物語でした。

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