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目  次

 もくじ

   【 魔道士の塔の学徒たち 】
   Act.00 父の厳命 
   Act.01 導師の課題  01  02  03  04  05  06
   Act.02 聖樹の祝福  01  02  03  ……


 あらすじ

 魔法の満ちる北陸の、「魔道士の塔」と呼ばれる「学舎」より端を発する。
 魔導師ウィードからの「課題」により、3人の学徒が集めらた。
 一人は協調性皆無の問題児リザオ。一人は八方美人な優男のアルベザイド。一人は気の強さしか売り処のないティンク。
 初っ端から問題山積の三人へ、師ウィードは南陸を目指せと言う。
 この気まぐれ無責任な旅立ちに一番割を食ったのは……ガディかな(誰?)


「登場人物の紹介」と「物語の簡単設定」はコチラをご覧下さい。
   ↓
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Act.00 父の厳命


 父の書斎は、苦手だった。
 部屋は広く天井も高い。壁があるべき場所には代わりの書棚がみっちりと並ぶ。収められているのは色とりどりで見慣れぬ文字が踊る書物とか、不思議な匂いと形の物品とか、色々と好奇心を刺激してくれる、の、だが――
 それでも、やはり父の書斎は苦手だった。
 書斎の奥に巨大な机が設えてあり、そこが父のお気に入りの場所。革張りの柔く大きな椅子に父が厳めしく座り、それだけで部屋に入りたい気分は失せる。
 要は父が苦手だったのかもしれない。
 まして父に呼ばれ、書斎の机の前で、爪先もとどかない背の高い椅子に座らされ、見上げれば父、という状況で、心落ち着く訳もない。
「……足を振るな」
 鋭い声が降った。父ではない。声が怖い。チラリと見れば、父の隣に兄が立っていた。一番上の兄だ。それだけで、さらに気分が重くなった。長兄はよく判らない事でクドクドと怒る。また何か小言だろうか。こんな大きな椅子に座らされては、途中で逃げる事も出来ない。
「ミトランシャーネを呼んでも、無駄だぞ」
 忠実で優しい友人の名前を持ち出され、背後の扉の向こうに居るはずの彼を思っていた心臓は、まさに縮み上がった。身を竦めて長兄を見ると、父そっくりの厳つい顔で「やれやれ」大仰に溜息を吐かれた。
「父上、本気ですか?」
 長兄は、物言いは家長におもねる風であるが、ずいぶん不遜な態度でナゲヤリだった。父は長兄をちょっと見やり、この顔しか出来ないんじゃないかと疑う仏頂面で目前の不肖な子供を見据えた。
 もちろんこの誤解は成人する頃に解けた……と思う。
「学舎へ行け」
 重低音の声で言う。この声音は好きだ。何故だか安心する。しかし、耳慣れない単語が混じった。『まなびや』ってなんだろう?
「何度でも申しますが、それは無理です」
 長兄は断じた。腕を組み、父を上から見下ろして、えらく偉そうだ。長兄は、父以上に家に居ない。長いと半年も居ない。たまに居ると、小言を食らう。昼間に居る事も滅多にないから、父の書斎に呼ばれて長兄が居る、という場合は余りない。
「屋敷以外で生活など出来ません」
 なんのことか、やはり長兄の言う事はよくわからない。
「我家の恥を晒すおつもりか」
「屋敷内で育てようと言ったは、おまえだ」
 父が長兄を見やる。長兄はちょっと憶したが、聞いた事もない語彙を多用して何かを言い撒いていた。そして、気付いて怒る。
「寝るなっ!」
 気持ち良い眠気に任せていたところへ怒声が落ちた。お陰で椅子から落ちてしまった。床は思ったより近かったが、激突する前にフワリと止まる。そのままもう一度椅子の上に引き上げられ、助け手が優しく微笑み「ありがとう」礼を言うと遠退いて、消えた。
 一息つけて机へ向き直ると、滅多に見れぬ長兄の丸目玉があった。しばし硬直し、長い息を吐いて頭を抱える。父は相変わらずの仏頂面で、ただ顎鬚を撫でていた。
「……おわかりでしょう。無理ですよ」
「無理か否か、自分で決めさせい」
 長兄の声は震えていた。急に、泣きたい気分になる。大好きな父の声音がなければ、本当に泣いていたかもしれない。
「おまえは、学舎へ行け」
 深い碧の瞳で見据え、深く染み入る声で言う。父は苦手だったが、好きでもあった。理由は、よくわからない。
 理由など、なくても良いのかもしれない。
「多くの知識を学び、多くの経験を積み、『世界』を見てこい。知って、理解して、どうしたいのかを決めなさい」
 父はゆっくりと、わかりやすい言葉で語る。その言葉に何と応えたか、実は覚えていない。眠くて、本当に眠くて、何か言った気はするが、目が覚めるとベットの中で、ただ闇雲に「学舎へ行かなきゃ」決心していた。
 学舎が何かも知らず、そこに何があるのかも知らず、そもそも知らない事も判らずに、決心だけは固かった。
 あの頃は何も知らなかった……と思える様になったのは、つい最近の事である。好きか苦手かですべてを分け、それ以上も以下もない、平穏で、閉じられた小さな『世界』
 でもやっぱり、あの『世界』も好きだった。
 理由は、そんなのなくても良いと思う。


Act.01 導師の課題 (01)


   ◆ ◇ ◆

 春の柔らかい陽射しを受けて、木々は淡翠の葉を一斉に芽吹かせた。風は微かな湿気をおびて暖かく、甘やかな花の香りを運ぶ。
 子供達の歓声も聞こえる。この一番美しい季節に、彼等は元気一杯にはしゃぎ回っていた。まぁ遊びを満喫する天才達は、何処でも何時でも何にでも興味を示し、感動し喜ぶ。
 そんな声の聞こえる木陰の下、影が動いた。しばらくゴソゴソ動き、それきりで、気持ち良さげな寝息が後を追う。誰か昼寝を楽しんでいるらしいが、黒い服を着ていて、日向と木陰の明暗に紛れ、見失う。
 実際、間違えられた。
 子供達は鬼ゴッコに夢中になって、一人が木の後へ隠れようと陰下へ走り込んだ。と、柔らかいモノを踏み付けてバランスを崩し、カエルでももう少しかわい気がありそうだと思う「ぐゥえっ」悲鳴に驚いて振り返った。
 ちょうど、黒い影がモソモソ起き上がったところだった。
「あ……すいません!」
 子供は悲鳴じみた声を上げた。自分が踏み付けてしまった相手は、かなり年上だが大人でもない、黒髪の青年だった。しかし問題はそれではない。彼が黒衣を身に着けている、その1点である。
 彼は『学舎』の最上級生だった。
「ごめんなさい、気が付かなくて……いえ、そうじゃなくて……」
 しどろもどろになった。黒衣の青年は軽く咳き込みながらも手を振って「大丈夫」こもった聞き取り難い声で言う。寝グセのついた髪を掻き回し、眩しそうに子供を見上げた。
 間があった。お互いに、沈黙している。子供は上級生が何か、例えば怒るとか文句をつけるとか、何か言うと思ったのに、青年は子供を、もしくは子供の着ている白い服を見ながらゆっくり瞬きを繰り返すだけ。初等学生の制服が、そんなに珍しいだろうか?
「……あの……本当に、すいませんでした」
 子供は恐々る謝罪する。青年は「いや」軽くもう一度頭を掻くと、唐突に聞いた。
「今、何時?」
 あまりにも唐突で短い質問に、子供は聞き違えたかと焦った。混乱する心臓を必死で抑え、質問の内容を反芻し、答える。
「休み時間です」
「……え?」
 意味が通じなかったらしい。何時から寝ていたのだと怪しみつつ、言い直す。
「午後二刻(三時頃)の、休み時間です」
 上級生は目を見開いて「おや、まあ」うめいた。その背後で、一際巨大な影がノソリと起き上がる。
「目が覚めましたか?」
 子供は心底驚いて影を見上げた。それは猫だった。厳密に言うと猫ではないのだが、巨大化した猫が喋ったのかと思った。毛並みは茶地に見慣れぬ黒い斑模様で、耳も猫というより鳥の翼のようだ。何より子馬並みに大きく人語を操る猫など、いる筈がない。
 でも猫だと思った。
 その認識の誤差が、子供に真実を思い出させる時間を多めに要した。
「約束の時間はとっくに過ぎました」
 猫はまた喋った。蒼水の貴石みたいに奇麗な瞳は黒衣の青年を見据えている。青年はボンヤリ猫を見上げ「……今日だっけ?」馬鹿な事を言った。猫の目がスッと細くなる。
「しっかりなさい、リザオ・ムスターニ」
 それが決定打だった。
「リザオ・ムスターニ!」
 子供は今度こそ悲鳴を上げて逃げ出した。成行きを見守っていた他の子供達も叫びを聞いて走り出し、リザオが昼寝を堪能していた木陰のある広場は、あっという間もなく無人になる。蜘蛛の子を散らすような、という形容がピッタリな、見事な逃っぷりである。
「悪名が、鳴り響いてますね」
 猫は驚かなかった。呆れてもいない。ただ事実をありのまま述べた。その横顔をリザオは恨みを込めてねめつける。
「わざと仕向けたくせに」
 リザオは今度こそ目が覚め、不機嫌になっていた。彼は姓名付きで呼ばれるのを嫌う。名を聞くと大抵の人間が及び腰になるか高飛車になるかで、良い事がない。最近では逃げられる始末だが、これに関してはリザオ本人に非がある。ただし、彼は自覚していない。
「親の職業が何かって、そんなに重要なのだろうか……?」
 リザオは優しく旧い友人、今では辛辣で毒舌の忠実な従者ミトランシャーネを見上げ、溜息を吐いた。
 リザオは代々有能な魔道士を多く輩出するムスターニ家の末っ子である。もとは国を持たぬ流浪の民であったが、祖父がキャディル王国の王宮附き魔道士に取りたてられたのを期に、その王都へ居を構えた。リザオの父も王宮魔道士として高名を馳せており、兄姉達も優秀な逸材として各地へ散っている。
 リザオが『学舎』へ入門するにあたり、周囲には並々ならぬ期待と嫉妬が高じた。彼の一挙一動が中傷の的になった。言い様は色々あったが「ムスターニのくせに」で集約できる。幼少の少年がどんな抵抗を試みたかは不明だが、入門して一年も経たず、仏頂面の無愛想で、滅多に口も聞かない子供になった。
 ミトランシャーネは少し険を落とし、物言いも穏やかに主人と定めた相手に言う。
「判りかねます」
 返答に一片の救いもなかったが。
 学舎へ入門して2年後、「リザオ・ムスターニの世話をする」と従者ミトランシャーネが押しかけた。学舎は基本的に寮生活で、各々に自活している。本来ならば承認されない申し出であったが、特例であった。
 ミトランシャーネは霊妖と呼ばれるとても貴重な生物だ。古代には神々の騎獣であったと言われる伝説上の聖獣で、現在には生息していない、筈であった。それが「ムスターニ家の末息子の従者」として突然に現れて、学者達は肝を潰し、学舎側の対応も遅れ、つまり猫の従者は慣例を無視して居座った。
 一連の騒動は新たな誹謗を呼び、結果、リザオの無愛想に磨きがかかった次第である。
「御師様が、お待ちです」
 従者は慇懃に主人を促す。が、当のリザオは「起こしてくれても良かったのに」「もう少し寝ていたい」等々ブチブチ言い募る。実際は従者の腹を枕に寝ていて、何度も起こされたのに、本人がまったく起きなかっただけだ。
「駄々をこねるも、いい加減にして下さい」
 従者の声にまた険が出る。さすがの剣呑な雰囲気に、リザオはようやく諦めた。溜息と共に立ち上がり、ふと師ウィードの執務室からここまでの距離を考える。
 リザオは従者を見上げて提案した。
「乗せてってよ、トラ」
「その名で呼ばないで下さいッ!」
 思わぬ悲鳴になった。
 従者は、愛称で呼ばれるのが嫌いだった。
 ……まぁ世の中、そんなモノだ……

   ◆ ◇ ◆


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